大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和29年(ヨ)4033号 決定 1955年6月30日

申請人 浦辺竹代

被申請人 三田精機株式会社

主文

被申請人会社は申請人を従業員として取扱わねばならない。

申請費用は被申請人会社の負担とする。

(注、無保証)

理由

一、当事者双方の申立

申請人は主文第一項と同趣旨の裁判を求め、被申請人会社(以下単に会社ともいう)は「申請人の申請を却下する。申請費用は申請人の負担とする」との裁判を求めた。

二、当裁判所の判断の要旨

(一)  申請人はもと田中精機工業株式会社の従業員であつたが、昭和二十七年二月十四日被申請人会社が設立され、同会社は甲中精機工業株式会社と代表取締役及び取締役三名を同じくし、その物的施設と共にその業務を引継いだので、申請人も同時にその従業員となつた。ところが会社は申請人が昭和二十九年五月三十一日四十年の停年に達し同日会社の従業員としての地位を失つたと主張し、爾来申請人が会社従業員たることを否定していること。

以上の事実は当事者間に争いない。

(二)  疏明によれば、被申請人会社は昭和二十九年六月十日所轄労働基準監督署に対し就業規則変更届を提出したこと、右就業規則によれば女子の従業員の停年を四十年と定められており、昭和二十九年五月一日より施行する旨の定のあることが認められる。

(三)  被申請代理人は右規則は施行当時組合の委員長に交付し且つ工場内掲示場に掲示し従業員に周知させたのでその効力を生じたものであつて、申請人は同年同月末日右規則により停年退職したと主張するけれどもその主張のように同月中に右規則を従業員に周知させ又は周知し得るように掲示等の方策を講じた事実を認むべき疏明はない。

元来就業規則は従業員に周知させ又は公示等の手段により従業員の周知し得る状態におかれることによつて始めてその効力を発生するものと解するのが相当であるので、本件就業規則は同年五月中に効力を発生したものということはできない。却つて疏明によれば、会社が右規則を作成したのは同年五月になつてからであり、同年六月頃もなお申請人らの所属する全日本機器労働組合三田精機分会は右案について討議していたことが認められるのである。

(四)  してみると、昭和二十九年五月三十一日当時会社においては従業員の停年に関する就業規則の定めは有効に存在しなかつたというのほかはないから、右の定めの有効に存在したことを前提としてその頃申請人が会社従業員たる地位を失つたとする被申請人会社の主張は理由がない。

しからば申請人の被申請人会社従業員たる地位は存続しているといわねばならないところ、申請人が右の地位の存続していることの確認を求める訴の判決確定に至るまで会社従業員としての取扱を受けられないことによつて申請人が回復し難い損害を蒙るべきは見易いところであるから、右の従業員たる地位を仮に定める趣旨の仮処分命令を求める本件申請は理由がある。よつてこれを許容し申請費用の負担については敗訴の当事者たる被申請人会社の負担とし主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 綿引末男 高橋正憲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例